東京地方裁判所 平成3年(ワ)9998号 判決 1995年3月29日
東京都中央区新富一丁目一五番一四号
原告
チーズ鱈製法特許管理株式会社
右代表者代表取締役
吉田豊穂
右訴訟代理人弁護士
小柴文男
右輔佐人弁理士
千葉太一
東京都葛飾区奥戸六丁目二二番一号
被告
株式会社萬和
右代表者代表取締役
小島憲
右訴訟代理人弁護士
荒木和男
同
近藤良紹
同
宗万秀和
同
田中裕之
同
早野貴文
右輔佐人弁理士
浅賀一樹
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告は、別紙方法目録(一)記載の方法(以下、「被告方法(一)」という。)を使用して魚肉練製品及びチーズの加工品(商品名称「チーズサンド」)を製造し、販売してはならない。
2 被告は、別紙方法目録(二)記載の方法(以下、「被告方法(二)」という。)を使用して魚肉練製品及びチーズの加工品(商品名称「チーズサンド」)を製造し、販売してはならない。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 被告
主文同旨。
第二 請求原因
一 原告の特許権
原告は、左記特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)の共有特許権者(持分一〇分の一)である。
登録番号 第一五二六九七三号
発明の名称 嗜好食品の製造法
出願日 昭和五七年一一月四日
公告日 平成元年三月六日
登録日 平成元年一〇月三〇日
特許請求の範囲 別添特許公報(以下「本件公報」という。)写し該当欄記載のとおり。
二 本件発明の構成及び作用効果
1 本件発明の構成を分説すると、
A 潰擂魚肉に澱粉、調味料等を加えて混練して薄板状に成形する混練物を加熱し、乾燥して魚肉シートを作る工程と、
B 魚肉シートの間に適宜厚を有するチーズを挟んで食品素材を形成する工程と、
C この食品素材を上下より加熱されたロースター板で適宜に加圧しチーズの上下表面部を融解させてチーズに魚肉シートを付着する工程と、
D 上記加熱付着された食品素材を水分含有率約三三%から三八%になるまで冷却する工程と、
E 冷却した食品素材を所定形状に裁断して製品とする工程と、
F 上記製品の所定量に脱酸素剤を入れて包装する工程とからなる
G ことを特徴とする嗜好食品の製造方法
である。
2 本件発明によって製造された嗜好食品は、第一に、粘着物を使用しないので魚肉シートとチーズが有する本来の旨味を損なうことがなく、おのおのの食感を同時に味わうことができ、第二に、製品の水分含有率を高く維持することができるので従来のこの種嗜好食品に比較してより柔軟で食しやすく、第三に、脱酸素剤の作用により保存性に優れた製品となる。
三 被告の実施行為
1 被告は、左記嗜好食品(以下「被告製品」という。)を業として製造販売している。
(一) 品名 魚肉練製品及びチーズの加工品
(二) 商品名称 チーズサンド
(三) 原材料名 プロセスチーズ、魚肉スリ身、澱粉、植物蛋白、砂糖、食塩、植物油、ソルビトール、乳化剤、調味料(アミノ酸など)
2 被告は、被告製品を製造するにあたって、被告方法(一)を使用し、または使用するおそれがある。
即ち、被告は、北海道函館市に所在する工場(以下「被告函館工場」という。)では、「上下からバーナー等の加熱手段で加熱されるロースター板」を保有していないが、被告はかつて右ロースター板を使って被告製品と同種類のチーズサンド製品を製造していたこと、被告の関係会社を下請として使用して被告製品を製造することも考えられること、本訴における被告の応訴態度等を考えれば、被告が被告函館工場以外の場所で現に被告方法(一)を使用しているかまたは使用するおそれがある。
3 被告は、被告製品の製造に当たり、被告方法(二)を使用している。
四 本件発明と被告方法(一)の対比
1 被告方法(一)を分説すると、
a 魚肉を擂り潰した魚肉スリ身に澱粉、調味料などを加えて混練して、薄板状に成形した混練物を加熱し、乾燥して魚肉シートを作る工程を経た魚肉シートを室之木食品株式会社から調達し、
b 魚肉シートの間に適宜厚を有するチーズを挟んで食品素材を形成する工程と、
c この食品素材を、上下からバーナー等の加熱手段で加熱されたロースター板で加熱加圧し、チーズの上下表面部を融解させてチーズに魚肉シートを付着する工程と、
d 加熱付着された食品素材を水分含有率約三三%から三八%になるまで冷却する工程と、
e 右食品素材を所定形状に裁断して製品とする工程と、
f 製品の所定量に脱酸素剤を入れて包装する工程とからなる
g 嗜好食品の製造方法
である。
2 本件発明におけるAないしFの工程と、被告方法(一)におけるaないしfの工程は、各々同一の工程である。
なお、被告方法(一)はaにおいて、魚肉シートを第三者から購入しているが、右の魚肉シートは、本件発明のAの工程を実施して製造されたものであるから、被告方法(一)のaは、被告が自ら本件発明のAの工程を実施して魚肉シートを製造している場合と同視すべきものであり、被告方法(一)のaの工程と、本件発明のAの工程は同一というべきものである。
また被告方法(一)も嗜好食品の製造方法であるから、構成要件Gを充足する。
五 被告方法(二)の特徴
1 被告方法(二)を分説すると、
a 魚肉を擂り潰した魚肉スリ身に澱粉、調味料などを加えて混練して、薄板状に成形した混練物を加熱し、乾燥して魚肉シートを作る工程を経た魚肉シートを室之木食品株式会社から調達し、
b 魚肉シートの間に適宜厚を有するチーズを挟んで食品素材を形成する工程と、
c この食品素材を、遠赤外線オーブンの内部を約二・七メートルの距離にわたって上下のメッシュベルトに挟んで移送し、この間に食品素材を上下から遠赤外線ヒーターによって加熱された上下のメッシュベルトによって、押さえながら加熱し、チーズの上下表面部及びその内部を融解させてチーズに魚肉シートを付着する工程と、
c’ このチーズと魚肉シートを付着させた食品素材をして、圧着ローラの下を通過させる工程と、
d 加熱付着された食品素材を水分含有率約三三%から三八%になるまで冷却する工程と、
d’ 冷却した食品素材の上下の魚肉シートから、はみだしているチーズをカッターナイフで切り揃える工程と、
e 右食品素材を所定形状に裁断して製品とする工程と、
f 製品の所定量に脱酸素剤を入れて包装する工程とからなる
g 嗜好食品の製造方法
である。
2 被告方法(二)によって製造された被告製品は、第一に、魚肉シートとチーズが有する各旨味及び食感が損なわれず、第二に、柔軟で食しやすく、第三に、保存性に優れている。
六 本件発明と被告方法(二)の対比
1 本件発明におけるCを除くA、B、D、E、Fの工程と、被告方法(二)におけるa、b、d、e、fの工程とは、各々同一の工程である。
2 被告方法(二)のaの工程において魚肉シートを第三者から調達しているが、このaの工程と本件発明のAの工程は被告方法(一)におけると同じ理由から同一と言うべきものである。
3 被告方法(二)のcの工程については、本件発明のロースター板も被告方法(二)のメッシュベルトも共に加熱されるものであること、三層の食品素材を上下から挟んでその自重でこれに適宜圧力を加えるものであること、ロースター板もメッシュベルトも共に薄く平たいものであって、その平たい部分で食品素材を均一に加熱しかつ加圧するものであること、また、本件発明でも被告方法(二)でもチーズの上下表面部を融解させてチーズに魚肉シートを付着するものであることなどの共通点を見るかぎり、被告方法(二)の工程cは、本件発明の構成要件Cに該当するというべきである。
現に、原告代理人が平成六年二月一〇日、被告函館工場において、操業状況を実見した際に測定したメッシュベルトの温度データによれば、メッシュベルトは一〇〇℃前後の温度になっていた。チーズの融解温度は九〇℃くらいであるから、これで十分にチーズサンドは製造可能である。
被告は、メッシュベルトは針金の部分よりも空白の部分のほうがはるかに大きいので、メッシュベルトによって加熱されるというようなことはありえないと言うが、かようなことは物理的に考えてありえない。
被告方法(二)の工程cにおいては、右メッシュベルトによる加熱のほか、遠赤外線ヒーターがメッシュベルトを通して直接加熱するものであること、チーズの上下表面部だけでなくその中まで融解させるものであるが、これらの点は付加的要素というべきもので、仮にこれによって製品の味がまろやかになったとしても、右の構成要件該当性を阻却する事由にはならない。
4 被告方法(二)のc’の工程については、仮にこの圧着ローラの工程によってチーズと魚肉シートを圧着するものであるとしても、すでに前の工程である遠赤外線オーブン内を通過することによって食品素材が加圧加熱されてチーズに魚肉シートが付着するものである限り、この圧着ローラにかける工程を加える意味はなく、本件発明との関係でいえば、全く無意味な付加的工程である。
5 被告方法(二)のdの工程については、この工程が製品の水分含有率を減少させる作用効果を有するものであり、かつ、この工程を経たチーズサンドの水分含有率が所定の値の範囲内にある限り、この工程は単に食品素材を冷却するのみであるといっても、このことによってこのdの工程を用いていないということはできない。被告は、食品素材の水分含有率は冷却前においてすでに所定の範囲内になっており、また、冷却した場合に水分含有率が多少低くなることはあっても、それはわずかなもので、意味があるものではない旨主張するが、シート及びチーズの水分含有率は品質や種類に応じて種々のものがあるうえ製品にするチーズの厚み等もいろいろであることを考えると、かように食品素材の水分含有率が冷却前においてすでに所定の範囲内になっているとは言えないし、また、冷却の時間や態様の選択如何によって食品素材の水分含有率が減少しすぎて所定の範囲内から逸脱してしまうことは充分に起こりうることであるから、被告の主張は失当である。
6 被告方法(二)のd’の工程は、本件発明の工程にないものであるが、本件発明との関係では全く付加的で、意味を有しない。
7 また、被告方法(二)も嗜好食品の製造方法であるから、本件発明の構成要件Gを充足する。
七 よって原告は被告に対し、本件特許権の持分権に基づいて、請求の趣旨記載の判決を求める。
第三 請求原因に対する認否
一 請求原因一、二の事実は認める。
二1 請求原因三1の事実は認める。
2 請求原因三2の事実は否認する。ロースター板を使用するチーズサンドの製造方法は平成二年六月頃まで行っていたがその後行わず、被告方法(一)は、平成二年六月頃から後、即ち本訴提起以前からすでに使用していない。
被告は被告函館工場以外には工場は保有しておらず、右工場内に現在ロースター板はないし、被告製品の製造にはロースター板より遠赤外線オーブンの方が優れているのであるから、被告が今後ロースター板を使用して、被告方法(一)を使用するおそれはない。
なお、かつて行なっていた別紙方法目録(一)のうち、(1)は認める。
同(2)については、aは、魚肉シートを訴外室之木食品株式会社から調達していることは認め、その余は知らない。bは、認める。
cは、否認する。被告は、ロースター板を使用していない。
dは、食品素材を自然あるいは強制冷却することは認め、これにより、その水分含有率を約三三から三八%にしていることは否認する。食品素材の水分含有率は冷却前においてすでに約三三から三八%となっている。冷却する目的は食品素材を切断しやすい状態にすることにある。
eは、水分含有率については、否認し、その余は認める。
fは認める。
3 請求原因三3の事実は、別紙方法目録(二)のうち、(1)は認める。
同(2)については、aは、魚肉シートを訴外室之木食品株式会社から調達していることは認め、その余は知らない。
bは、認める。
cについて、食品素材Aが、遠赤外線ヒーターなる加熱手段によって加熱された上下のメッシュベルトによって、上下から押さえられながら加熱されることは否認し、その余は認める。食品素材は、ステンレス製のメッシュベルトによってではなく、遠赤外線ヒーターの放射熱線によって直接加熱されており、メッシュベルトは食品素材の反り上りを防止するものであって、加圧は圧着ローラーによっている。遠赤外線オーブンでは遠赤外線ヒーターから放射される熱線が素材を直接かつ均一に加熱するところにその本質的特徴がある。メッシュベルトはオーブン内の雰囲気温度の上昇と共に上昇するが、それによる素材への加熱作用、効果は期待されていない。メッシュベルトは針金の部分よりも空白の部分のほうがはるかに大きく、仮にメッシュベルトの金属部分が一〇〇℃前後になっていたとしても、食品素材がメッシュベルトによって加熱されるのはメッシュベルトの金属部分と接触している部分だけであり、残りの大部分はメッシュベルトと接触していないのであるから、メッシュベルトによって加熱されるということはありえない。更に遠赤外線オーブンによるときは、放射熱によるので、スイッチを押せば、すぐに食品素材の加熱が可能であり、メッシュベルトが加熱されるまで待つ必要はない。このことからも、遠赤外線オーブンでは、メッシュベルトによる加熱など期待されていないことが明らかである。
メッシュベルトは素材を移動させ、反り上がりを防止するためのものである。加熱の媒体ではないし、加圧の効果も期待されていない。このことは、上下のメッシュベルトの間に三層の食品素材を二つ重ねて送り込むことができるほどの間隔があることからも明らかであり、加圧の効果もないゆえに、圧着ローラにかけるc’の工程が必要なのである。
メッシュベルトの材質が加熱されても、常温のままであっても、遠赤外線オーブンとしての機能にはいささかの変化もない。
c’は認める。
dは、食品素材を自然あるいは強制冷却することは認め、これにより、その水分含有率を約三三から三八%にしていることは否認する。冷却の目的は食品素材を切断しやすい状態にすることにあり、水分含有率の調整が目的ではない。ゆえに、水分含有率を測定あるいは調節する装置はなんら存在していない。食品素材の水分含有率は冷却前においてすでに約三三から三八%となっている。即ち、魚肉シートの水分含有率は二〇%前後、チーズの水分含有率は四〇%前後であるから、加重平均されたチーズサンドにおける水分含有率が約三三から三八%の範囲内にあることは当然のことである。三層の食品素材を遠赤外線オーブンに通し、冷却した場合に水分含有率が多少低くなることはあっても、それはわずかなもので、意味があるものではない。
d’、e、f、gは認める。
三 請求原因四、同五1の事実は否認する。同六、七は争う。
第四 被告の主張(本件特許権の無効事由の存在)
一 本件特許権は、次の発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法二九条二項の規定により特許を受けることができないものである。
1 実開昭五七-一一七九九三三号(昭和五七年七月二二日出願公開)記載の発明
2 特公昭五四-三六六六七号(昭和五四年一一月一〇日出願公告)記載の発明
3 月刊誌「PACKS」昭和五三年二月号(昭和五三年二月一日株式会社日報発行)中の「三菱パッケージングニュースNo.四三」に記載の発明
4 特公昭四八-二三三六号(昭和四八年一月二八日出願公告)記載の発明
5 特開昭五四-一一三四六四号(昭和五四年九月五日出願公開)記載の発明
6 特公昭五〇-三九一三九号(昭和五〇年一二月一五日出願公告)記載の発明
二 即ち、
1 本件発明の構成要件は、前記第二、二1のとおりに分説できるところ、右一1の公開実用新案公報には、「魚のすり身に澱粉、調味料等を加えて混練し、これをロースターで圧焼加熱しながら薄板状に成形し、更にこれを水分二〇%程度まで乾燥させて魚肉シートを作り、これにソルビトール液と天然多糖類水溶液を混合したペースト状の粘着物を塗布した後、スライスチーズを挟んで軽くプレスして両者を密着させ、次いで所定の大きさに裁断して包装することからなる、魚肉シートの間にチーズを挟んで密着させた嗜好食品の製造法」が開示されている。
これは、本件発明の魚肉シートの製造過程並びに該魚肉シートの間にチーズを挟んで加圧密着させて一体化した後これを所定形状に裁断し包装する点で共通する。
なお、前記一6の特許公報には「タラ等のすり身に澱粉、調味料等を加えて混練し、これを薄板状に成形したのち焼成、乾燥することからなる魚肉シートの製造方法」が開示されている。
しかしながら、魚肉シートをチーズに密着させる方法について、一1では、魚肉シート(内面)に可食性のペースト状粘着物を塗布してからチーズを挟んで加圧密着させるのに対し、本件発明では、かかる粘着材料を使用することなく、チーズを挟んだ魚肉シートの両側から加熱板で加熱加圧することにより直接チーズ両表面部を融解させて魚肉シート内面に融着させる点で異なる。
2 他方、前記一2の特許公報には「適当厚に切ったプロセスチーズの間に水分三五~五五%のキノコ類を薄板状にしたものを挟んで重ね合せ、八〇~九〇℃に加熱してチーズが軟化した時点で、一方より圧してキノコとチーズを重合一体化せしめる『キノコを挟んだチーズの製造法』」が開示されている。
また、前記一4の特許公報には「調味したのしいかの間にチーズを挿入して加熱加圧して、これを細かく裁断する『チーズを挟んだのしいかの製造方法』」が開示され、前記一5の公開特許公報には「のしいか等の調味乾燥したいかにチーズを載せてその上にさらに上記同様のいかを重ねてサンドイッチ状にし、これらを上下から加熱した鉄板で加圧して適度にそれらいかにチーズを滲み込ませると同時に両者を密着させ、これらを冷却させることを特徴とするチーズいかの製造方法」が開示されている。
このようにキノコとチーズを密着一体化させる技術や、のしいかとチーズを融着一体化させることは、従来から行われてきた。したがって、適当厚のチーズと他の薄板状食材とを密着させるにあたり、特別の可食性ペースト状接着材料を使用しなくとも、加熱加圧によりチーズを他の食材に融着させることは、常套手段であり、魚肉シートの間にチーズを挟んだ食品素材において、温度と時間との選択によりチーズ表面部だけを融解して両者を密着させるようなことは、当業者において必要によりなし得る程度の事項にすぎない。
なお、のしいかと魚肉シートについて、特段の違いは認められない。
3 本件発明において、魚肉シートでチーズを挟んで密着した後、常温に戻した状態での食品素材の含水率を「約三三~三八%」に限定しているが、かかる数値限定には何ら特別な意義はない。
即ち、前記一1には魚肉シートの含水率が「二〇%程度」である旨記載され、他方、チーズの標準含水率は通常四〇%程度である以上、両者の重量を勘案すると、当然に、前記一1の食品素材の水分含有率も、多くは「約三三~三八%」の範囲に含まれることになるからである。
なお本件明細書によれば、含水率を高く維持しているとするが、従来の同種のものに比して特別高いわけではない。
4 また、このような水分含有率の食品を脱酸素剤と共に非通気性包装袋内に包装することにより、カビ等の発生を防止し、食品の風味を長期間保存する技術も、何ら新規なものではない。
前記一3には、脱酸素剤の原理、性能、効果、使用方法並びに代表的な食品の水分含有率と脱酸素剤を該食品に使用した場合の具体的効果が記述されており、食品の含有水分によって「AGELESS」(商品名)の「F」か「Z」を使い分けること、とくに高水分用の脱酸素剤「F」を使用すれば、水分含有率四〇%程度のプロセスチーズはもちろんのこと、水分含有率六八~六九%の魚肉ソーセージ、更には水分含有率七〇%以上を有する魚肉やちくわ、はんぺん等の水産練製品に対しても、カビ防止、生菌抑制、風味保存等の効果を発揮することが開示されている。
したがって、本件発明の含水率程度のものは、脱酸素剤の使用によって、カビ等の発生を防止し、風味を長期間保存できることは、当業者にとって自明のことである。
5 以上のように、本件発明の各構成要件は、すべて前記一1ないし6の公知技術を単に組み合わせたものに過ぎず、これらの技術に基づいて、当業者ならば容易に想到し得るものであるから、特許法二九条二項の規定に基づき、本件特許権は無効とされるべき事由がある。
三 よって、無効となるべき特許権に基づく本訴請求は権利濫用として棄却されるか、あるいは本件発明の技術的範囲は実施例に限定されるものとして解釈されるべきである。
第五 被告の主張に対する認否
被告の主張は争う。
第六 証拠関係
証拠関係は本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりである。
理由
一 請求原因一、同二の事実は当事者間に争いがない。
二1 請求原因三1の事実は、当事者間に争いがない。
2 被告が現在、被告函館工場に、かつて被告が使用していた、上下からバーナー等の加熱手段で加熱されるロースター板を保有していないことは原告の自認するところであり、別紙方法目録(一)によれば、右のようなロースター板で食品素材Aを加熱加圧し、チーズ2の上下表面部を融解させてチーズ2に魚肉シートーを付着させる工程は、被告方法(一)の主要な工程の一つであることが明らかであるから、被告は、現在被告函館工場において、被告方法(一)によって被告製品を製造していないものと認められる。
原告は、被告がかつて被告方法(一)によって被告製品を製造していたこと、被告が関係会社を下請として使用することも考えられること、被告の応訴態度などから、被告が、被告函館工場以外の場所で現に被告方法(一)を使用しているかまたは使用するおそれがある旨主張する。
しかしながら、被告が被告函館工場以外の場所で現に被告方法(一)を使用していることを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、弁論の全趣旨により成立を認める乙第三一号証によれば、被告の製造工場は被告函館工場のみでその外に製造工場はないこと、被告代表者小島憲は、チーズサンドの製造方法としてはロースター板を使用する被告方法(一)よりも遠赤外線を使用して加熱する被告方法(二)などの方が優れていると考え、ロースター板を使用してチーズサンドを製造する意思はないことが認められ、被告が平成二年六月頃まではロースター板を使用してチーズサンドを製造していたことは被告の自認するところであるが、そのことから、被告が被告方法(一)によって被告製品を製造する可能性があるとは認められない。
成立に争いのない甲第四八号証、撮影対象が被告が販売している珍味商品の写真であることについて当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により平成六年一一月六日伊東尚裕が撮影した写真であるものと認められる甲第四九号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第五〇号証、乙第三三号証によれば、被告は、他社製品を自社ブランドで販売するいわゆるOEMにより、チーズサラミ、チーズタラバなどのチーズにサラミソーセージやカニの肉が入ったチーズサンド製品や、ロール剣先いか、剣先むしりいかなどの製品を販売していることが認められる。しかしながら、前記乙第三三号証によれば、チーズサラミ、チーズタラバといった本件発明と関係のある製品を製造しているのは、訴外扇屋食品株式会社であると認められるところ、同社が被告方法(一)を使用していること、あるいはそのおそれがあることを窺わせる証拠はないことによれば、同社が被告方法(一)を現に使用し、または将来使用するおそれがあると認めるに足りない。更に右扇屋食品株式会社以外の被告とOEM取引のある関係会社が被告方法(一)を現に実施し、あるいはそのおそれがあると認めるに足りる証拠はない。
よって、被告が本件訴訟において被告の実施している方法として他の方法のみを開示し、被告方法(二)に対応するものとして被告が主張するような方法を開示しなかった態度を考慮しても、被告方法(一)については、被告が現在これを実施しあるいはそのおそれがあると認めることができないから、その余の点について判断するまでもなく、被告方法(一)について差止めを求める原告の請求は理由がない。
三1 被告が被告製品を製造する方法につき、被告方法(二)のうち、b、c’、d’、e、f、gの工程を経ていること、並びにaの工程のうち魚肉シートを訴外室之木食品株式会社から調達していること、cの工程のうち食品素材Aを遠赤外線オーブンの内部を約二・七メートルの距離にわたって上下のメッシュベルト5に挟んで移送すること、及びdの工程のうち食品素材を自然あるいは強制冷却することは当事者間に争いがない。
2 成立に争いのない甲第六号証、甲第八号証、甲第九号証、甲第一四号証ないし甲第一九号証、撮影者、撮影対象、撮影年月日に争いのない甲第二八号証ないし甲第三四号証の各一、二、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第一三号証によれば、被告の使用している魚肉シートは、別紙方法目録(二)(2)aのとおり、魚肉を擂り潰した魚肉スリ身に澱粉、調味料などを加えて混練して、薄板状に成形した混練物を加熱し、乾燥するという工程で製造されたものであることが認められる。
3 前記dの工程による冷却後の食品素材の水分含有率が三三%から三八%であることは被告の自認するところであるが、被告が、前工程を経た食品素材を、右の水分含有率に「なるまで」冷却する、即ち冷却することによって右の水分含有率にまで変化させる工程を採用していることを認めるに足りる証拠はない。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四五号証によれば、訴外株式会社なとりの社員が、同社製品の原料を使用して厚さ五mm、六mm、七mmのチーズをそれぞれ二枚の水分含有率二八%の魚肉シートで挟みロースターで加熱してチーズと魚肉シートを付着させた後、二五℃の室内で扇風機の送風をあてて冷却し、水分含有率を測定したところ、水分含有率が三三%ないし三八%の範囲内におさめるためには、チーズ厚さ五mm、六mmのもので一ないし二時間の冷却、七mmのものでは二ないし四時間の冷却が必要であったことが認められるが、同時に厚さ五mmのものは加熱前三八・三%、加熱直後が三八・二%、厚さ六mmのものは加熱前三八・八%、加熱直後三八・六%、厚さ七mmのものは加熱前三九・三%、加熱直後三九・一%であったことも認められ、実験に使用した材料が被告の使用しているものではないこと及び本件公報の発明の詳細な説明中には、材料としての魚肉シートの水分含有率が約一七%ないし二二%、一七・五%(実施例1)、二一・五%(実施例2)、約一九%(実施例3)と記載されており、甲第四五号証の実験に用いられた魚肉シートはこれらと比べても水分含有率が高いことをも考慮すると、右証拠をもって、被告の実施している方法が、冷却することによって三三%ないし三八%の水分含有率になるものとは認めるに足りない。
4 前記1のc工程中の当事者間に争いのない部分、前記乙第三一号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第二一号証及び弁論の全趣旨によれば、被告の実施する方法のc工程において、食品素材は遠赤外線オーブンの内部を、約二・七メートルの距離にわたって上下のメッシュベルトに挟まれて移送される間に遠赤外線によって加熱されているところ、この遠赤外線による加熱は、加熱対象である食品素材と熱源との直接の接触を必要とすることのない放射によるもので、熱は電磁波として直接物質に吸収されてこれにより物質の温度が上昇するので、食品素材中のチーズの内部及び上下表面部が融解しチーズに魚肉シートが付着するものと認められる。
原告は、被告方法(二)は、食品素材を、遠赤外線ヒーターによって加熱された上下のメッシュベルトによって、上下から押さえながら加熱しチーズの表面部及び内部を融解させると主張する。
弁論の全趣旨により成立を認める甲第三七号証によれば、原告が被告函館工場において被告製品の製造状況を確認した際、原告輔佐人が同工場で使用されている遠赤外線オーブンの出口付近の上側メッシュベルトの温度を測定したところ、測定結果は九八℃ないし一〇九・九℃との測定値が得られたことが認められる。この測定は測定に使用した計器を「安立計器(株)製デジタル温度計HL-三〇二型」とするのみで、その測定方法がそれ以上明らかでないため、その信頼性を十全なものというには足りないことはさておいても、弁論の全趣旨により成立を認める甲第四四号証によれば、原告が一〇〇℃、一五〇℃、二〇〇℃のメッシュベルトのみでそれぞれ一分間、食品素材を加熱して製造実験をしたところ、一〇〇℃のメッシュベルトのみでは、一部チーズと魚肉シートの付着が不十分であったものと認められる。右によれば、本件公報中の記載(2欄三行)のようにプロセスチーズの融解温度が九〇℃であっても一〇〇℃の温度のメッシュベルトのみでは、商品として販売しうる製品を製造するには十分な加熱であると認めるには足りない。
しかも、被告方法(二)に使用するメッシュベルトの一部であることについて当事者間に争いがない検乙第二号証によれば、右メッシュベルトは直径一mmほどの針金状のステンレスを組み合わせて、底辺約六mm、等辺約七mmの二等辺三角形の網目にしたものであることから、メッシュベルトによる加熱が存在するとしても、右のステンレスが接している部分以外の大半の食品素材部分はメッシュベルトによって加熱されないことになる。また右認定のメッシュベルトの形状によれば、遠赤外線の照射面積に占めるメッシュベルトの金属部分の割合は僅少なものである。
これらの事実によれば、被告の実施している方法においては、原告が主張するようなメッシュベルトによる加熱が意図されておらず、現実の食品素材への加熱作用も一部につき不充分な寄与をしているにすぎないことは明らかであるとともに、むしろ被告の実施している方法においてメッシュベルトが採用されたのは、被告が主張するように、遠赤外線を使用した加熱によるときは、ロースター板のように直接接触して同時に加圧もしていないため、加熱時に魚肉シートの反り返りを防止する手段として、遠赤外線を透過し得る十分な空隙部分があって遠赤外線の食品素材への放射を妨げることが少なく、遠赤外線オーブン内という加熱雰囲気中におかれる耐熱性も充足するものとして、採用されたものと窺うことができる。
四 右三のとおり認定した被告の実施している方法が、本件発明の構成要件を具備するか否かについて検討する。
1(一) 本件発明の構成要件Cの「ロースター板」の意味について検討するに、本件公報の発明の詳細な説明には、本件発明の一般的説明の一部として、「斯くして得た食品素材Aは、プレスロースター機3によって加圧加熱される。食品素材Aはガス等の加熱源4によって加熱され、且つ夫々に循環駆動する上下の鉄板製のロースター板5の間に挟持されつつ、ロースター機3内を移送する。加熱源4によるロースター板5への加熱温度はロースター板5の表面が約80~100℃の温度を有するものとし、またロースター機3内を移送する時間は約2~3分間とする。即ち、食品素材Aは上下のロースター板5、5により適宜な加圧を受けつつ、約80~100℃の温度にて約2~3分間加熱されるもので、加圧加熱された食品素林Aの上下の魚肉シート1、1は両ロースター板5、5との接触面において焦げ目が付かない程度に加熱されて膨脹すると共に、両魚肉シートー、1と接触するチーズ2はその上下表面のみが融解して魚肉シート1、1の凹凸面に喰い込み、付着する。この際、焼き上がり食品素材の品温は約70~76℃となる。」(本件公報3欄一九行ないし三七行)とある外にはロースター板の説明はない。右記載によれば、本件発明の構成要件Cにおける「ロースター板」とは、プレスロースター機の一部を構成するもので、ロースター「板」という名称からも、鉄板製という説明からも板状のものであり、二枚で上下から食品素材を挟持し適宜加圧した状態でロースター機内を移動し、ロースター機内の加熱源により上下から加熱され、その熱を、挟持し、直接接触している食品素材の表面へ熱伝導によって伝えることによって加熱する作用をするものと認めるのが相当である。
(二) 原告は、被告方法(二)の工程cにおいて、遠赤外線ヒーターによって加熱された上下のメッシュベルトにより、食品素材が上下から押さえられながら加熱されて、内部のチーズが融解されるとともに加圧されてチーズと魚肉シートが付着されているので、右メッシュベルトが本件発明のロースター板に相当し、被告方法(二)において、右メッシュベルトによる加熱のほか、遠赤外線ヒーターによって直接加熱されてチーズの上下表面部だけでなくその中まで融解され、このため味がまろやかになることがあるとしても、これは付加的要素で被告方法(二)は本件発明の技術的範囲に属する旨主張する。
(三) しかし、被告方法(二)のメッシュベルトは、その形態が金網状であって板状のものでないばかりか、前記三4に認定したとおり、上下のメッシュベルトで挟まれた食品素材の内、食品素材に直接接触する部分に熱を伝導することはあっても、目的とする食品の製造に必要な加熱という面から見れば、食品素材の一部につき不十分な寄与をしているにすぎず、主要な加熱作用は、熱源である遠赤外線ヒーターから直接に加熱対象である食品素材への放射によっているのであって、メッシュベルトが金網状で十分な空隙部分があることによって達成されるのに対し、板状のロースター板で食品素材を挟持するのでは、熱源からの放射によって食品素材を直接加熱できないことからすれば、被告方法(二)の工程Cにおいて使用されるメッシュベルトは、「上下より加熱され、適宜に食品素材を加圧しチーズの上下表面部を融解するロースター板」とは認められないから、本件発明の構成要件Cのロースター板に該当するものということはできない。
したがって、被告方法(二)は、本件発明の構成要件Cを充足するとは認められない。
2 本件発明の構成要件Dを充足するか否か検討するに、前記三3に認定判断したとおり、被告の採用している方法が、加熱付着された食品素材を、水分含有率が約三三%から三八%になるまで冷却する工程を含むものとは認めるに足りないから、被告の方法は本件発明の構成要件Dを充足するものということはできない。
3 よって、その余の点について判断するまでもなく、被告方法(二)(前記三に認定したもの)は、本件発明の技術的範囲に属するものということはできない。
五 よって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 高部眞規子 裁判官 櫻林正己)
<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告
<12>特許公報(B2) 平1-13340
<51>Int. Cl.4A 23 L 1/325 識別記号 101 庁内整理番号 G-7732-4B H-7732-4B Z-7732-4B <24><44>公告 平成1年(1989)3月6日
発明の数1
<54>発明の名称 嗜好食品の製造法
<21>特願昭57-193611 <55>公開昭59-85273
<22>出願 昭57(1982)11月4日 <43>昭59(1984)5月17日
<72>発明者 名取小一 東京都北区東十条6丁目5番15号
<71>出願人 株式会社なとり商会 東京都北区東十条6丁目5番15号
<74>代理人 弁理士 千葉太一
審査官 高木茂樹
<57>特許請求の範囲
1 潰擂魚肉に澱粉、調味料等を加えて混練して薄板状に成形する混練物を加熱し、乾燥して魚肉シートを作り、上記魚肉シートの間に適宜厚を有するチーズを挾んで食品素材を形成し、上記食品素材を上下より加熱されたロースター板で適宜に加圧しチーズの上下表面部を融解させてチーズに魚肉シートを付着し、上記加熱付着された食品素材を水分含有率約33~38%になるまで冷却した後、所定形状に裁断して製品となし、上記製品の所定量に脱酸素剤を入れて包装することを特徴とする嗜好食品の製造法。
発明の詳細な説明
本発明は魚肉を主材料とした魚肉シートとチーズとからなる嗜好食品の製造法に関する。
鱈等の魚肉を主材料とする練製乾燥食品は比較的低廉にして漁獲し易い材料として最近とみに多く使用され、その製品はさきいか類似品等をはじう多くの珍味嗜好食品に利用されて来ているところである。一方、チーズは蛋白質、脂肪、ビタミ類等を多量に含有し、風味の秀れた栄養食品とて日本人の間にも広く食されているものである。
従来、のしいかの風味とチーズの風味とがよく調和し美味であることに着目して発明されたものは、特公昭48-2336号公報、特開昭54-113464公報等に知られているが、これらはのしいかのにチーズ挿入して耐熱鉄板で挾んで加圧加熱るに、5分間前後の加圧時間をもつて温度120~180℃の加熱を加えるとしており、この温度条件はのしいかに挾持されたチーズ自体の融解温度(プロセス・チーズにあつては90℃)を超えた高温加熱であり、およそチーズはのしいかから熔け出して製品とはなり得ない虞があり、また、のしいか自体も高温な加熱によつて乾燥され、製品の食感が硬く食味を劣化させるものといえた。一方、魚肉練製品の間にチーズを挾んだサンドイツチ状製品としては実開昭57-117993号公報にみられるところであるが、これは魚のすり身を原料とした乾燥品にソルビート液と天然多糖類水溶液を混合したペースト状の粘着物を塗布した後にスライスチーズを挾むとするものであり、このペースト状の粘着物が介在することによつて魚肉繰製品やチーズの旨味を損う欠点があつた。加えて、これらはいずれもチーズを使用しているも、純粋な乳製品にして栄養価が高いが故に、発徴し易い等のチーズの保存性に対する配慮を欠くものであつた。
本発明は、これらの従来品にみられた種々の欠点に着眼して改良発明されたものであり、魚肉シートとチーズとの本来の形態及び旨味を損うことがなく、製品の水分含有率を高く維持することによつてソフトな食感を有すると共に、製品の包装に際して脱酸素剤を同時に封入して製品包装袋内の酸素を除去せしめ、徴等の細菌が発生するのを防止することによつて製品の保存性をより高めた嗜好食品の製造法を完成したものである。
次に、図面を参照しつつ本発明をさらに詳細に
説明する。
<1> 魚肉シートは、鱈の潰擂肉に澱粉、卵白、食塩、化学調味料、味淋を加えて混練し、該混練物を圧延成形機により約3~5mm厚の薄板状に成形し、該薄板の品温が80~85℃になるように加熱して焼き上げる。焼き上げられた混練物は全体に稍黄色を帯びた乳白色を呈し、上下表面の部分には焼け焦げがつく。次に、縦110mm×横450mm程の長方形に切断して30~40℃の温風乾燥機で乾燥し、水分含有率約17~22%に乾燥すると、1~3mm厚の魚肉シート1が得られる。
<2> 上記魚肉シート1に上に魚肉シート1と略同形にして3~5mm厚にスライスされ、水分含有率約42~43%のチーズ2を載せ、更にチーズ2の上に魚肉シート1を載置し、両魚肉シート1、1の間にチーズ2を挾んだ食品素材Aを形成する。
<3> 斯くして得た食品素材Aは、プレスロースター機3によつて加圧加熱される。食品素材Aはガス等の加熱源4によつて加熱され、且つ夫々に循環駆動する上下の鉄板製のロースター板5の間に挾持されつつ、ロースター機3内を移送する。加熱源4によるロースター板5への加熱温度はロースター板5の表面が約80~100℃の温度を有するものとし、またロースター機3内を移送する時間は約2~3分間とする。即ち、食品素材Aは上下のロースター板5、5により適宜な加圧を受けつつ、約80~100℃の温度にて約2~3分間加熱されるもので、加圧加熱された食品素材Aの上下の魚肉シート1、1は両ロースター板5、5との接触面において焦げ目が付かない程度に加熱されて膨張すると共に、両魚肉シート1、1と接触するチーズ2はその上下表面のみが融解して魚肉シート1、1の凹凸面に喰い込み、付着する。この際、焼き上がり食品素材の品温は約70~76℃となる。
<4> 次に、上記食品素材Aを冷却棚6に載置し、水分含有率約33~38%、その厚さ約4.5~10mmとなるまで冷却するに、食品素材Aの品温は室温と略等しくなる。また、送風機等による強制冷却も可能であるが、食品素材Aの水分含有率約33~38%を条件に行なうものとする。
<5> 上記のように、冷却された食品素材Aは相反する方向への間欠的に回転する上下のギザローラー8、8と両ギザローラー8、8と同調して上下動するカツター9を有する裁断機7によつて所定形状に裁断する。食品素材は上下のギザローラー8、8の間欠的な回転によつてカツター9方向へ前進し、カツター9の作動により幅約3~10mmの適宜所定幅に裁断し、第6図及び第7図に示すように、細長い形状で上下の魚肉シート1、1の間にチーズ2を挾み、水分含有率約33~38%の柔らかい食感を有する製品aが製造される。
<6> 而して得られた製品aを包装袋10に包装するに、トレイ11の内へ所定量の製品aと脱酸素剤Bとを共に入れた後、該トレイ11を包装袋10に収納して包装袋10の開口部を密封する。包装袋10は通気性を存さないフイルム等で形成され、外気との通気を遮断するものであり、一方、脱酸素剤Bは包装袋10内の酸素を吸収する固形の組成物である鉄、炭化鉄等の鉄粉、亜二チオン酸塩、亜硫酸塩、第二鉄塩等の還元性無機塩、ヒドロキノン、カテコール、ピロガロール、没食子酸、ブチルヒドロキシアニソール等で例示されるボリフエノール類、グルコース等で例示される還元性糖類、アスコルビン酸、エリソルビン酸等で例示される還元性多価アルコールからなる群より選択される還元剤を主材とするもので、これらの適宜を通気性の包材で密封するものであり、包装袋10内の酸素はこの脱酸素剤Bによつて吸収されることにより、包装袋10内は無酸素状態となり、徴等の発菌を防止するものであるが、製品aの有する約33~38%の水分を吸収することはなく、製品aはその水分含有率を維持しつつ徴等の発生を防止されるものである。
次に、本発明の実施例について説明する。
実施例 1
魚肉シートとプロセス・チーズの場合魚肉シートの材料として、
鱈のスリ身 100kg
澱粉 25kg
卵白 40kg
食塩 4kg
化学調味料(グルタミン酸ソーダ) 7kg
味淋 2kg
を混練し、該混練物を圧延成形機により約5mm厚の薄板状に成形し、該薄板状の混練物の品温が80~85℃となるようロースター機により加熱して焼き上げる。焼き上げられた混練物は縦110mm×横450mm程の長方形に切断した後、30~40℃の温風乾燥機により乾燥し、水分含有率17.5%前後で約1mm厚の魚肉シートとする。この魚肉シート2板の間に厚さ約3mmにスライスされた水分含有率約42.5%のプロセス・チーズの1枚を挾んで食品素材を形成する。次に、約90℃の表面温度を有する上下のロースター板の間に上記食品素材を挿入する。食品素材は循環駆動する上下のロースター板に挾持されつつ約2分間の加圧、加熱を受けると、魚肉シートは膨張してより柔軟になると共に、プロセス・チーズの上下表面部が融解されて上下の魚肉シートの凹凸面に従つてしつかりと付着する。続いて、上記食品素材を冷却棚に載置し、厚さ約5mm、水分含有率35.5%前後となるまで冷却する。上記食品素材を裁断機にて幅約3mm×厚さ約5mm×長さ110mm程の細長い棒状に裁断し、水分含有率約35.5%(平均値)の柔らかい製品を得る。そして、上記製品75gと脱酸素剤(株式会社ダイヤケミフア製造-商品記号ORC)とを通気性のない樹脂製フイルムにて形成された包装(フイルム材KNY/PE/CPP3層大日本印刷株式会社製造、袋内容積約360cm2)に入れて密封する。
この製品は、魚肉シートとプロセス・チーズの夫々が調和した味を呈し、食感において柔らかく食し易いものであつた。
実施例 2
魚肉シートとチーズの上下表面に唐辛子粉末を添加した場合、
上記実施例1と同様の工程に従つて水分含有率21.5%、約3mm厚の魚肉シートを製造する。チーズは約4mm厚にスライスした後、上下表面に唐辛子の粉末を略均一に散布した水分含有率42.5%のものとする。そして上記魚肉シート2枚の間に唐辛子付きのチーズの1枚を挾んだ食品素材を形成する。次に、約98℃の表面温度を有する上下のロースター板の間に挿入すると、食品素材は循環駆動する上下のロースター板に挾持されつつ約2分30秒間の加圧、加熱を受け、該魚肉シートは膨張してより柔軟になると共に、唐辛子粉末の付着しているチーズの上下表面部が融解されて上下の魚肉シートの凹凸面に従つてしつかりと付着する。次に、上記食品素材を冷却棚に載置し、厚さ約10mm、水分含有率33.5%前後となるまで冷却する。この食品素材を裁断機にて幅10mm×厚さ10mm×長さ110mmの細長い棒状に裁断し、水分含有率約33.5%(平均値)の柔らかい製品を得る。そして、上記製品70gと脱酸素剤(実施例1と同様)とを通気性のない包装袋(実施例1と同様)に入れ密封する。
この製品は魚肉シートとチーズの夫々の味に加えて唐辛子の味を呈し、食感において柔らかく佳味であつた。また、製品の外観にあつて、チーズと魚肉シートとの接触面に唐辛子の粉末が点在し、色彩の優れたものとなつた。
実施例 3
魚肉シートとワサビを混練したチーズとの場合
上記した実施例1と同様の工程に従つて水分含有率約19%、約1mm厚の魚肉シートを製造する。チーズはプロセス・チーズに適量のワサビを混練して全体に淡緑色を有し水分含有率約42%のもので、該ワサビ入りチーズを約5mm厚にスライスする。上記魚肉シート2枚の間にワサビ入りチーズ1枚を挾んで食品素材を形成する。次に、約85℃の表面温度を有する上下のロースター板間に挿入すると、食品素材は循環駆動する上下のロースター板に挾持されつつ約3分間の加圧、加熱を受け、魚肉シートは膨張してより柔軟になると共に、ワサビ入りチーズの上下表面部が融解されて上下の魚肉シートの凹凸面に従いしつかりと付着する。次に、上記食品素材を冷却棚に載置し、厚さ約7mm、水分含有率37.5%前後となるまで冷却する。この食品素材を裁断機にて幅3mm×厚さ7mm×長さ110mm程の細長い棒状に裁断し、水分含有率約37.5%(平均値)の柔らかい製品を得る。そして、上記製品70gと脱酸素剤(実施例1と同様)とを通気性のない包装袋(実施例1と同様)に入れて密封する。
この製品は魚肉シート及びワサビの夫々の味が調和した味を呈し、食感において柔らかく美味であつた。また、魚肉シートの乳白色の間に淡緑色のチーズが位置し、色彩コントラストに富んだ製品となつた。
次に、実施例1、2、3で得られた製品についての保存検査を行つたところを表1に示す。この保存検査は温度30℃、湿度80%の恒温恒湿器による防徴保存検査の結果を示すもので、比較例1、2、3は実施例1、2、3のうちより脱酸素剤を入れることなく包装したものを使用し、各個の検体はいずれも正味75g、包装袋の包材はKNY/PE/CPP3層の通気性を有しないものとし、各個の包装袋は含気包装の状態で行つている。
表1 防徴保存検査
<省略>
(注) -……なし
±……ややあり
+……あり
……顕著にあり
上記表1の通り、本発明の方法によれば製品の保存性が高く、優れていることが明らかとなつた。また、製品の水分含有率にあつてもほとんどその変化は認められず、約33~38%の高い水分含有率を維持することのできる製品であることが判明した。
以上、詳細に説明したところから明かなように、本発明の製造法による嗜好食品は、魚肉シートとチーズとが有する本来の旨味を損うことがなく、夫々の味の調和した味を呈する製品とすることができると共に、魚肉シートとチーズとの各食感をも同時味わることのできるものである。また、製品の水分含有率を高く維持することができることにより、従来のこの種嗜好食品に比較してより柔軟で食し易い製品にすることができる。更に、脱酸素剤の作用により保存性に優れた製品を提供できる等の特徴を有するものである。
図面の簡単な説明
図面は本発明の実施例を示す概要工程図であり、第1図は魚肉シートの斜視図、第2図は一部切欠して示す食品素材の斜視図、第3図はブレスロータスー機の状態を示す部分縦断面図、第4図は冷却状態を示す斜視図、第5図は裁断状態を示す正面図、第6図は製品の斜視図、第7図は製品の拡大縦断面図、第8図は包装状態を示す正面図であり、図面中1は魚肉シート、2はチーズ、5はロースター板、6は冷却棚、7は裁断機、10は包装袋、Aは食品素材、aは製品、Bは脱酸素剤を示す。
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第4図
<省略>
第5図
<省略>
第6図
<省略>
第7図
<省略>
第8図
<省略>
方法目録(一)
(1) 図面は本件方法の製造工程を概略的に示すもので、第1図は魚肉シートの斜視図、第2図は一部を切欠した食品素材の斜視図、第3図はロースター板による加圧加熱工程を部分的に示す部分断面図、第4図は冷却工程を部分的に示す正面図、第5図は裁断工程を示す正面図、第6図は製品の斜視図、第7図は包装状態を示す正面図である。
(2) 本件方法は次の各工程からなる。すなわち、a擂り潰した魚肉に、澱粉のほか、植物蛋白、砂糖、食塩、植物油、ソルビトール、乳化剤、調味料(アミノ酸等)を加えて練り混ぜ、薄板状に成形した混練物を、加熱、乾燥して魚肉シート1を作る工程(第1図参照)を経た魚肉シート1を室之木食品株式会社から調達し、bこの魚肉シート1の間にチーズ2を挟んで食品素材Aを作る工程(第2図参照)、cこの食品素材Aを、上下よりバーナー等の加熱手段4で加熱されたロースター板5で加熱加圧し、チーズ2の上下表面部を融解させてチーズ2に魚肉シート1を付着させる工程(第3図参照)、dこの付着された食品素材Aを食品棚6に載置し、自然冷却あるいは送風機等を使用した強制冷却によって、水分含有率約三三から三八%になるまで冷却する工程(第4図参照)、eこの所定の水分含有率まで冷却した食品素材Aを、反対方向に回転する上下一対のローラ8と、これらローラ8に同調して上下動するカッター9とを備えた裁断機7によって、細長い棒状に裁断して製品aとする工程(第5図及び第6図参照)、fこのようにして得られた製品aを、トレイ11上に脱酸素剤bとともに入れ、このトレイ11を通気性のない樹脂製フィルムで形成された包装袋10内に収納して包装袋10の開口部を密封する工程(第7図参照)、である。
(目録(一)用)
<省略>
方法目録(二)
(1) 図面は本件方法の製造工程を概略的に示すものであり、第1図は魚肉シートの斜視図、第2図は一部を切欠した食品素材の斜視図、第3図は遠赤外線オーブンによる加圧加熱工程を示す部分断面図、第4図は圧着ローラの工程部分に示す断面図、第5図は冷却工程を示す正面図、第6図ははみ出したチーズをカッターで切り揃える工程を示す斜視図、第7図は裁断工程を示す正面図、第8図は製品の斜視図、第9図は包装状態を示す正面図である。
(2) 本件方法は次の各工程からなる。すなわち、a魚肉を擂り潰した魚肉スリ身に澱粉、調味料などを加えて混練して、薄板状に成形した混練物を加熱し、乾燥して魚肉シート1を作る工程を経た魚肉シート1を室之木食品株式会社から調達し、b魚肉シート1の間に適宜厚を有するチーズ2を挟んで食品素材Aを形成する工程と、cこの食品素材Aを遠赤外線オーブンの内部を、約二・七メートルの距離にわたって上下のメッシュベルト5に挟んで移送し、この間に食品素材Aを上下から遠赤外線ヒーター4によって加熱された上下のメッシュベルト5によって、上下から押さえながら加熱し、チーズ2の上下表面部及びその内部を融解させてチーズ2に魚肉シート1を付着する工程と、c’このチーズ2と魚肉シート1を付着させた食品素材Aをして、圧着ローラ20の下を通過させる工程と、d加熱付着された食品素材Aを水分含有率約三三%から三八%になるまで冷却する工程と、d’冷却した食品素材Aの上下の魚肉シート1から、はみだしているチーズ2をカッターナイフ30で切り揃える工程と、e右食品素材Aを所定形状に裁断して製品aとする工程と、f製品aの所定量に脱酸素剤bを入れて包装する工程とからなる、g嗜好食品の製造方法である。
(目録(二)用)
<省略>
特許公報
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>